「イラストは得意で、SNSでも評価される。それなのに、いざマンガを描こうとするとペンが止まってしまう」
絵が描ける人にとって、マンガが描けない原因は「画力の不足」ではなく、むしろ「画力の高さ」ゆえに陥るマンガ特有の思考プロセスの欠如にあります。イラストレーターの経歴を持つ私自身も(言ってもそこまでの画力はないものの)やはり1枚イラストのほうが得意です。こうした悩みを抱える人は少なくないのだろうと思います。
マンガは、絵を並べたものではなく、絵を使って「時間」と「視線」を設計する表現です。この問題を解決する鍵は、作画の前段階である「ネーム」の捉え方を変えることにあります。
なぜ「絵が描ける人」ほどマンガで挫折するのか #
一枚の完成された絵を描く能力と、マンガを描く能力は、スポーツに例えるなら「重量挙げ」と「サッカー」ほど異なります。私もつまずいた「絵が得意なのにマンガが描けないあるある」な理由を下記にまとめました。
「決め」と「連続」の矛盾 #
一枚絵の目的は、その一画面の中に視線を留めさせ、完成度を堪能させることです。ひとつの「決めポーズ」に対してすべてを注ぎます。しかし、マンガの目的は「次のコマへ視線を流すこと」です。一つずつに心血を注いでしまうと、読者の視線はそこでストップしてしまい、物語のテンポが損なわれます。
全力投球によるリソースの枯渇 #
高い画力を持つ人は、背景も人物の服の皺も、すべてのコマを「作品」として仕上げようとします。マンガには「情報の優先順位」が必要です。すべてを書き込みすぎると、読者はどこを見ればいいのか分からず、描き手は数ページで燃え尽きてしまいます。
絵としての見せ方の違い #
イラストレーターは「被写体を最も美しく見せる角度や形状」を選択しますよね。マンガ家は「その状況を最も分かりやすく伝える形」を選択しなければなりません。時にはあえてキャラクターをブサイクに描いたり、豆粒のように小さく描いたりする勇気が求められます。
この悩みを「ネーム」で解決してみる #
マンガ制作における最大の難所であり、かつすべての解決策が詰まっているのが「ネーム」です。ネームとは、コマ割り、キャラクターの配置、セリフ、構図を書き込んだ、いわば設計図です。
マンガが描けない人は、ネームを「下書きの下書きの絵」と考えてしまいがちですが、実際に必要なものは「絵」ではありません。
イラストレーターがネームをつくる為の考え方 #
イラストレーターとしてのこだわりを漫画家としてのこだわりに方向転換できるように考えていきましょう。
① 広い目で絵と捉え、「雑」にやってみる #
マンガの1コマ目を描いて「とてもいいコマが描けた!」と感動したことがありませんか?私も経験済みのその感動は、ネームには不要です。マンガは1ページや、もっと広く「1話」単位で構成するものです。全力で描いたコマが続くより、例えばページの中に一際注目を集める渾身の1コマがあるほうがメリハリが付いて読みやすくなります。
ただ、どのコマに全力を注ぐか迷いますよね。そこで助けてくれるのがネームの工程です。ネームは一度ザザッと作り切ることが大切。荒治療になりますが、イラストレーターに向けて言うのであればネームは「雑」なほどいいと考えたほうがいいかもしれません。
ネームが出来上がった後でどのコマを主役に仕立てるかを考えていきましょう。ネームはただのオーディション会場です。
② 「まず絵を描く」をやめ、「まずセリフを置く」で視線誘導をつくる #
ネームの段階で最も意識すべきは、そこにどんな絵があるか、よりも「そこにある要素によって読者の目がどう動くか」です。一枚絵の中にも視線誘導が存在するので、ページ全体を見渡すようにする意識をすれば、すぐに慣れてくるかと思います。
- フキダシを先に置く:
セリフは視線を導くガイドです。絵を描く前にフキダシを配置し、読者が迷わない動線を作ります。マンガにおいて視覚に大きな影響を与えるフキダシは「キャラクター」よりもさらに「絵」の役割を持っているように見るくらいでもいいかもしれません。 - 視線の出口を作る:
コマの左下に、次のコマへ繋がる「何か(手、視線の先、動きの残像)」を置くことで、ページを捲る流れが生まれます。
③ コマに役割を持たせ、「描かない」決断をする #
ネームは、作画のコストを削るための軍議の場でもあります。「キャラの驚きを見せる」「部屋の広さを説明する」「次の行動への予兆」など、一コマに持たせる役割を一つに絞ってください。役割が決まれば、自然と「顔に寄るべきか」「背景まで引くべきか」という構図も論理的に導き出されます。ネーム時はその構図を決めるだけ。この工程によって注目させるべき部分の絞り込みができ、ネーム以降でも描き込みすぎを防ぎます。
- 情報の引き算:
重要な感情を見せるコマ以外は、背景を白く抜く、あるいはトーンだけで処理する。 - キャラの記号化:
遠いショットや繋ぎのコマでは、顔のパーツを簡略化し、「そのキャラだと分かれば良い」というレベルまで描き込みを落とします。
これによって、メインのコマがより際立ち、作品全体にメリハリが生まれます。
④ 最小限の「情報」と割り切って最後まで描き切る #
これがイラストレーターにとって一番重要かもしれません。絵が描ける人ほど、ネームの段階で綺麗な顔を描こうとしてしまいます。しかし、ネームで重要なのは「話が通じるか」と「テンポ」です。ネームは「絵」じゃなく「情報」をメモしておくものと割り切ってください。
一度最後まで到達することで、全体のバランスが見え、「ここはもっと削れる」「ここはもっと大きく見せるべきだ」という冷静な修正が可能になります。
ネームの「雑」を強制させるツール「マンガネーム作成ツール」 #
スマホブラウザでネームが作れる「マンガネーム作成ツール」は、 「マンガが描けないイラストレーター」だった開発者が、マンガを描く為につくったツールです。つい細部にまでこだわってしまう癖をなんとかしようと、「ネームに本当に必要なもの」を選びぬき、機能として実装させました。
まず、マンガ制作ツールなのに絵は描けません。
キャラクターが「どんな顔をしているか」「どんな動きをしているか」「どんな方向から見えるか」は3Dモデルにポーズを指定してキャプチャを撮るだけで完了。今まで永遠にやっていた 「目を描いてるときって楽しいな〜」って描き込んだのに結局そのコマ自体必要なくなるみたいな生産性の無さが消えてなくなりました。
背景を決め始めたときの「ここにビルがあって、雲が流れて…そうするとビルのパースがこっちで…描き終わってみるとなんか違うな、もう少し煽りで描き直そう」これを永遠に繰り返す茶番も、今では、アプリ内で素材を検索して「この写真みたいにしよう」とそこに画像を配置するだけ。せいぜい「こっちの写真に差し替えたほうがいいか」くらいの手直しです。
フキダシの形もただ選ぶだけ。「トゲトゲの形が気になるからもうちょい綺麗に描きたい」なんてこともありません。
「マンガが描けないイラストレーター」の私に必要だった「本来必要だった作業しかできないという縛り」がこのツールにはある。
私はマンガネーム作成ツールによって、「とてもいいコマが描けた感動」から「とてもいい物語が成り立った感動」へ、イラストレーターから漫画家としてのステップアップができました。
マンガネーム作成ツールはスマホで出来るうえ絵も描かなくていいので、寝ながらでも作業できる点も気に入っています。
【まとめ】マンガは「絵」ではなく「体験」を届けるもの #
「絵が上手い」ことは、マンガ家にとって大きな武器になります。しかし、武器を磨くことと、戦場を支配することは別物です。
マンガが描けないと悩んでいるなら、一度「綺麗な絵を描く自分」を捨ててみてください。ネームという設計図の上で、読者の視線を操り、感情を揺さぶり、情報を整理する。この「演出」の楽しさに気づくことができれば、あなたの高い画力は、単なる一枚絵を超えて、読者を別世界へ連れて行く強力な推進力へと変わるはずです。
まずは、真っ白なネーム用紙に、最高にラフなキャラクターを躍らせることから始めてみましょう。